10  (8月6日)
   モーツァルトがインスピレイションを引き出したのは、ただ自分自身からだけであった。外界の細部は彼に何の影響も与えなかった。自然には無関心だったので、『田園交響曲』や『四季』を作曲するはずもなかった。旅行中でさえも、彼は風景を見ていない。彼は作曲し、瞑想するのである。この永遠の少年が、手帖から目も上げずにヨーロッパを駆け巡っていたのを思い描くことは大切である。誰と一緒に旅しているのか知りもせずに、彼は旅行していたのである。「ナポリは美しい町です」「ヴェネチアはとても気にいりました」旅のことで彼が書き記すのは、これだけである。
  1. Indifférent:lui(モーツァルト)にかかる形容詞だが、文脈から理由の意味とした。前にétantを補って一種の分詞構文として考えてもよい。
  2. écrira:écrireの単純未来形で、ここでは過去における未来を表す。一般に過去における未来は条件法を使うが、この文章のように歴史的現在(過去の出来事を目前で行われているように描く用法)をベースに書かれている場合は単純未来を用いることも多い。最後の文のécriraは語調緩和とも取れる。
  3. Il est indifférent à+(名) de+不定詞[que+接続法]:非人称構文「(名)にとって~することはどうでもよいことだ」否定文になると「~することは大切だ、重要だ」

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