29  (8月25日)
   シューベルトの音楽の長さには退屈して眠くなりませんか、とストラヴィンスキーは尋ねられた。
   「目が覚めた時に天国にいるような気分ならば、かまわない」と彼は答えた。
   シューベルトの音楽は天国を思い起こさせる。 より正確に言えば、 それは天国への郷愁を表している。 しかし、 それはどのような天国に対するものなのか。 もちろん、 神学者の天国ではないし、 ダンテの天国でもない。 そうではなくて、 無垢な場所、 無邪気で優しい場所と考えられている天国のことであり、 それは地上でこの上なく愛し合っていた人々が再会する場所である。 シューベルトの音楽は、この失われた楽園への憧れにほかならない。 だからこそ、彼の音楽は私達を感動させ、 その魅力に惹きつけるのであり、また彼の音楽が他のいかなる音楽にも似ておらず、 私達に類い稀な言葉を語りかけるのも、 同じ理由からなのである。
  1. Strawinsky:ロシア生まれの作曲家(1882-1971)。後年はアメリカに渡るが、初期のバレエ音楽をはじめとして多くの作品がパリで初演されており、フランスとの縁は深い。有名なバレエ音楽「春の祭典」も原題は"Le Sacre du Printemps"とフランス語である。
  2. si les longueurs:si以下は無生物主語なので、 人が主語になるように訳出。
  3. Qu'importe!:=Peu importe!「どうでもいい、かまわない」
  4. ciel:ここでは単なる「空」ではなく、théologienなどの言葉から判るように、神のいる場所、すなわち「天国」のことである。
  5. ou plutot:より正確にいえば
  6. nostalgie du ciel:de(du)は「~への、~に対する」
  7. où se retrouvent ceux:関係詞の後で倒置。ここでは主語のceuxにさらに関係詞節がついて長いため。
  8. comme il faut:(副詞的に)しかるべく、申し分なく、きちんと
    (形容詞的に)立派な、きちんとした
  9. C'est par là qu':強調構文。que以下は2つある。
  10. par là:それによって(làは前文を指す)
  11. singulier:基本的な意味は「奇妙な」だが、ここでは「独特の、他に類を見ない」

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